住まいの文化
  建築文化史家 一色史彦
(三)地木(じぼく)  
 この地域には豊かな平地林や屋敷林が見られます。今では大きな松が生い茂る景観は少なくなってしまいましたが、杉の方はまだ健在です。伝統的な民家建築を考える場合、材木が身近に入手出来ると言うことが何よりも大切な要素であったのです。
 
 このことについて三つほどの思い出があります。大学四年の夏休み、東北地方への一人旅の折りに立ち寄った盛岡市の古い商家のご主人から、土地の木を使う建物が長持ちしますよ、何よりもその土地の空気に馴染(なじ)んでいるから、と聞きました。二番目には、かつて建設省の木造住宅振興モデル事業委員会に加わっていたときに、日本有数の宮大工と評判の西岡常一氏から聞いたこと。千年経った木を使えば、その建物は千年は持つ、と言うのです。三番目は、私の尊敬する宮大工、田中文男氏が数年前に復元修理した取手市の龍禅寺三仏堂です。約四五〇年前に建ったとされる古建築ですが、その杉柱の表面は風雨に当たって木目が波打っています。年輪を数えると僅(わず)か二十五年前後でした。

取手市・竜禅寺三仏堂

 これらのことから考えると、西岡氏の言葉にはもう一言、地木(じぼく)を使えば、と入れた方が良さそうです。樹齢が若くとも、その二十倍もの年数を経た建築遺産を私達は身近に見られるのです。 *西岡常一 1909〜1995
法隆寺近くの宮大工の家に生まれた。1934年から始まった法隆寺の「昭和の大修理」で、世界最古の木造建築の金堂や五重塔の解体修理を手がけた。
   
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