もくじ

表紙
1・霞ヶ浦の地誌

2・古代の霞ケ浦

3・霞ヶ浦の民俗・信仰

4・霞ヶ浦と洪水

5・霞ケ浦の水運

6・霞ケ浦の水生植物

7・霞ケ浦の野鳥
第二十四話
浄化のシンボル・オオヨシキリ
第二十五話
野鳥の宝庫・浮島湿原
第二十六話
冬の風物詩・カモ
第二十七話
ツバメの越冬地になるか
第二十八話
江戸崎のヒシクイ
第二十九話
浮島湿原にタンチョウ飛来

8、霞ケ浦の魚・貝類

9、霞ケ浦の漁業

10、霞ケ浦とアオコ

11、霞ケ浦の富栄養化

12、霞ケ浦の化学物質汚染
13、霞ケ浦と農業
14、地球環境と霞ケ浦
15、常陸川水門
16、霞ケ浦の水利用
17、流域開発と環境容量
18、霞ケ浦と文学・映画
19、霞ケ浦の市民運動
20、よみがえれ、豊かな霞ヶ浦

第二十八話   江戸崎のヒシクイ

 今秋(平成二年、一九九〇)の異常な暖かさで霞ケ浦周辺の刈田のひこばえが二番穂を 出し、結実しました(七十七話)。ひこばえの稔りは、餌不足の厳しい冬を過ごす野鳥たちにとって、うれしいプレゼントになります。

 霞ヶ浦で越冬する約四万羽のカモ類は、日中は湖面で休み、夜間に周辺の水田や湿地で雑草の種子 やわずかな落ち穂を食べますが、ひこばえの稔りのおかげでこの冬は飢えずにすむかもしれません。

 霞ケ浦にはガン類も少数ですが渡ってきます。ガン類は森鷗外の 名作「雁」に描写されたように、昔は上野不忍池や葛西、行徳付近の湿地に多数渡ってきたのですが 開発に追われ、現在では、霞ケ浦が越冬の南限になってしまいました。

 江戸崎町稲波干拓地と引舟地区が渡来地で、昭和五十九年(一九八四)ごろからヒシクイというガンが約五十羽毎年越冬しています。ヒシクイも人気のない刈田で餌を探します。この場所は、関東における唯一のガン類の安定した渡来地として 注目され、平成三年一月十二日には、江戸崎町中央公民館で全国のガンの研究者を集めてシンポジウムが開催され、これを契機に稲波干拓地が鳥獣保護区に指定されました。

 ガンが、サオ型からカギ型へ形を変えながら編隊飛行する様子は昔から日本人に親しま れ、「月に雁」は日本画の代表的構図です。霞ケ浦でもガンの編隊飛行が普通に見られるようになればすばらしいのですが。

  ヒシクイ観察会の一コマ。江戸崎町の干拓農地は関東地方で唯一 のガンの越冬地。この近くに首都圏中央連絡自動車道が計画されて いることから反対運動がおきている。オオヒシクイかヒシクイか